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道路ネットワーク全体の性能のカギを握る信号交差点

信号交差点は歩行者、自転車、自動車が同一空間上で交錯する場であるため、安全上、円滑上、また環境上、極めて重要な道路区間です。信号交差点の構造設計と信号制御は、これらの性能を大きく左右することになります。したがって、設計・制御に際しては、多角的な視点に立って細心の注意を払う必要があります。

自動車・自転車・歩行者といった異なる利用者による多数の動線コンフリクトが発生します。交通事故の50%以上は交差点で発生していることからも、交差点では安全面を意識する必要があり、とりわけ複雑な制御が行われる信号交差点では、制御が及ぼす影響を十分に見極めなくてはいけません。


道路形状別事故発生状況(平成27年)
出典:警察庁交通局

信号灯火により異なる方向に通行権を逐次与えるため、環境交通容量が単路部に比べ低くなります。そのため、都市内街路での渋滞のボトルネックの大部分は信号交差点となっています。 また、信号交差点での待ち時間(遅れ)の増大はドライバーにストレスを与え、危険挙動の誘発により安全性を低下させる恐れもあります。このように円滑性と安全性は相互依存の関係にあることから、信号交差点の構造設計と制御にあたっては、多角的な視点に立って細心の注意を払うことが必要です。

信号交差点付近での加 速やアイドリングによる騒音公害や、排出ガスの発生による大気汚染などの環境影響が問題となります。円滑性・安全性とともに、これからは環境にも配慮した信号交差点の構造・制御手法が求められています。

広大で待ち時間が長い日本の信号交差点
横断歩道を歩いていてヒヤッとしたり,信号がすぐに変わらなくてイライラしたことはありませんか? 

日本の信号交差点には改良の余地が数多く残されています. 

道路構造


典型的な大規模交差点の例
(航空写真:Google Earth)

1. 横断歩道の広さと取付位置

交差点から離れた位置に幅広な横断歩道が取り付けられているため、右左折車両も高い速度のまま横断歩道に進入しやすくなります。

2. 大きな隅角部半径

交差点内での右左折車の速度を高め歩行者事故の危険があるほか,違法路上駐車を誘発します。

3. 大きく後退した停止線位置

停止線位置が大きくセットバックしているため、クリアランス距離が長くなり、全赤時間を長くとる必要があります。

4. 交通島による導流化を嫌う

交差点の隅角部にスペースが空いている場合、マーキングで導流化されていることがよくあります。このような導流化では、左折車はマーキングの上を走行できてしまうため、高い速度のまま交差点内に進入し、横断歩行者の見落としの危険にも繋がります。

信号制御

 

極めて長いサイクル長

日本の大規模交差点では120~180秒といった長いサイクル長がほとんどですが、海外先進国では60~90秒が一般的です。長すぎるサイクル長は待ち時間を増大させるだけでなく、利用者にイライラを募らせることで駆け込み進入などの危険挙動を誘発します。

長いインターグリーン時間(黄+全赤時間)

必要以上に長い全赤時間は、ドライバーに黄現示で停止する意識を弱めてしまい、全赤表示に駆け込み進入する車両が生じやすくなります。不適切なインターグリーン時間設定は、その交差点での信号無視を常態化させるだけでなく、損失時間が大きくなることで交通処理能力の低下に繋がります。

十字交差点では単純4現示制御が一般的

単純な4現示制御では、方向別交通需要に偏りがある場合に柔軟な対応が難しくなります。たとえば、交差方向に車両がいないにも関わらずが赤信号で待たされるといった無駄が生じます。一方、多現示制御であれば、方向別に細かく現示を割り当てられるほか、交錯の起きない動線同士を組み合わせて安全性を向上させることも可能になります。

 

 

信号灯火は青のみ

わが国では単独での青矢表示はできず、あくまで補助灯火として丸赤灯火とともに用いられます。これではどちらの方向に対して黄現示を出しているのか判断しづらく、多現示制御への拡張を難しくしています。


 

信号灯火の位置(far-side + near-side)

日本の交差点では原則、左向こう側と右手前側に信号灯火を置く形が一般的です。しかし、このような配置では、ドライバーにとって信号の切り替わりタイミングを予測しやすくし、出会い頭事故の発生要因でもある無理な駆け込み進入や見切り発車を誘発させます。それに対し、海外先進国の信号交差点では、信号灯火は停止線の直近に設置されていることが一般的です。そのため、停止線を越えると自分の灯火を確認することはできず、また交差方向の灯火を見ることもできないため、ドライバーにとって切り替わりの予測を難しくしています。


 

歩行者は原則として一度の青で横断

横断歩行者は一回の青で横断しなくてはならず、大規模な交差点では横断時間が長くなることで歩行者青時間を長めにとる必要が生じます。また、歩行者青時間の後半部になると歩行者がばらけてくるため、その合間を縫ってすり抜けようとする右左折車が多くなり、歩行者との交錯の危険が一層高まります。

コンパクトかつ高度な交差点運用の例
海外先進国の信号交差点では,短い信号サイクル長で遅れや容量低下をできるだけ少なくするために,道路構造や信号制御に多彩な工夫が施されています.

導流化によるコンパクトな交差点構造

海外先進国では特に中規模以上の交差点において、常時左折可とする導流化が積極的に導入されています。交通島の設置により左折車の走行速度を抑える効果があるほか、隅角部を設ける必要がないので停止線位置が交差点側に前進することでクリアランス時間は短くなります。

交通島による導流化の例(ドイツ)
(航空写真:Google Earth)


予告現示による発進遅れの抑制

サイクル長の短い海外先進国では、青信号の前に図のような予告信号を青開始前に1秒程度表示することで、切り替わり回数の増加に伴うドライバーの発進遅れを減らす工夫をしています。


歩行者の二段階横断

横断歩道長が長くなりがちな大規模交差点では、歩行者青時間は長くなりがちです。そこで、歩行者を一度で横断させずに、中央分離帯上に設けられた安全島で滞留させながら、2 つの信号機により短い歩行者青時間で二段階に横断させる方式がとられています。

多現示制御

例えばドイツでは、多車線の道路が交わる交差点においては多現示での制御が一般的で、車線ごとに信号灯火が設置され動線別に細かく現示を調整しています。さらに、停止線手前に設置された車両感知器と信号制御が連動することで、車両が存在しないときには不要な現示をスキップして次々に信号を切り替えています。このため、表示される信号の時間やパターンは交通状況に合わせて複雑に変化します。

安全性の確保と円滑性の向上を両立する
安全を犠牲にすることなく、今よりも待ち時間の少ない信号交差点へと改良することは難しいのでしょうか?

交差点の見えない危険を数値化する

問題のある交差点に対して道路構造や信号制御を変更する際には、改良による安全面への影響が気になります。しかし、現 状では安全性を事前に予測することは難しく、多くの場合、改良による安全性の低下を必要以上に恐れ、抜本的対策が遅れることにもなります。このような不安を解消するためにも、安全性を科学的根拠に基づき定量的に評価する手法が必要です。

安全性と円滑性はトレードオフか?

一般に、安全性と円滑性にはトレードオフの関係があると考えられています。私たちは、「安全性と円滑性のトレードオフ関係 は常に成り立つとは限らず、場合によっては円滑性と安全性を共に現在よりも向上できる領域が存在する」と確信しています。 構造と制御に応じた安全と円滑の性能が推定できれば、現状の交差点運用はどの位置にあり今よりも改善できる余地があるのか、改善できるとすればどの方向に改良を進めていけばよいかを指し示す、交差点運用の" 羅針盤" になると考えています。


当研究室が考える安全と円滑の関係イメージ

安全性と円滑性はトレードオフか?

信号のサイクル長と円滑性(遅れの少なさ)との関係について考えてみます。①サイクル長が長いほど待ち時間は増え、円滑性は低下しま す。逆に、②サイクル長が短いほど信号の切替回数が多くなることで、捌ける交通量は少なくなり円滑性は低下します。同様に安全性についても、③サイクル長が長いほど増加する待ち時間がドライバーにストレスを与え、危険挙動の誘発により安全性は低下します。逆に、 ④サイクル長が短いほど切替回数が増えること で利用者同士の交錯機会も増加し、やはり安全性は低下すると考えられます。円滑性(遅れ)については理論的に最適なサイクル長が明らかにされています。安全性については未知であるものの、その形は大まかに図の破線のようになると予測されます。

研究テーマ
私たちの研究室では、より安全かつ円滑な信号交差点の実現を目指し、 次のような研究テーマに取り組んでいます。

インターグリーン時間の決定方法に関する研究

一見、小さくみえるインターグリーン時間(黄時間+全赤時間)は利用者挙動に多大な影響を及ぼします。不適切なインターグリーン時間設定は、交差点の容量低下をもたらすばかりか、利用者の危険挙動を誘発させ、待ち時間の増大や事故発生という形となって表れます。私たちは現在、このインターグリーン時間を円滑・安全の両面から合理的に決定する方法について、ドイツ・ダルムシュタット工科大学と共同で研究を進めています。

2Dナノシミュレーションモデルの開発

従来のミクロシミュレーションでは考慮されてこなかった、交差点構造の違いが車両の軌跡や速度の変化に与える影響、さらには、信号切り替わり時の利用者の危険挙動を再現可能なナノシミュレーションモデルを開発しています。交差点の新設や改良などの施工前に、安全性や円滑性を事前予測可能な交差点設計シミュレーションシステムの実現を目指しています。

安全性の定量的な評価指標の開発

交差点改良に際しては、構造や制御の改良によって円滑性とともに安全性がどれだけ改善するのか見極めることが重要です。そのため、安全性を定量的に評価する手法が必要になりますが、現状では交通事故の発生件数で議論されることが多く、事故件数だけでは見失いがちな安全性の変化を定量的に評価する手法は十分に確立されていません。私たちは、事故件数のような稀な事象を評価指標とするのではなく、事故に繋がりそうな潜在的な危険性に着目することで、これら安全性を科学的根拠に基づき定量的かつ素早く評価する手法の開発に取り組んでいます。

横断歩行者の挙動分析と歩行者信号の再検討

画像処理技術を利用したミクロ挙動解析により、歩行者の実態に即した横断歩道の構造設計、歩行者信号の運用手法を研究しています。現状の歩行者青時間・点滅方式を見直すとともに、二段階横断方式の導入可能性も視野に入れ取り組んでいます。また、これらの研究成果を基にした歩行者シミュレーションモデルの開発を予定しています。

路面標示の利用者認識に関する研究

不適切な路面標示は利用者の遵守率を低下させるだけでなく、交差点内の利用者挙動が不安定になることで、円滑性・安全性に多大な影響を及ぼすと考えられます。そこで、利用者にとって無理がなく、かつその交差点の制御と構造に見合った路面標示を実現するため、実態観測に基づいた分析を通じ、適切な路面標示の運用方法について検討を行っています。

多現示制御の評価に関する研究

センシング技術との組み合わせによる信号制御の高度化に関する研究

車線幅員の違いが飽和交通流率に与える影響に関する研究

信号交差点の制御手法と環境影響

 

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(最終更新日: 2008/04/14) 

 

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